正しいISOマネジメントシステムを伝えるブログになる予定です

失敗しないISO構築法(その2)―会社の状況を確認しよう(概要編③)

2021/03/06
 
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ISO9001,ISO14001,ISO/IEC17025のコンサルタント・セミナー講師などをやっています。世の中では「ISOは役に立たない!」という声も聞かれますが私はそうは思いません。世間の誤解を解くため,25年に渡るISOマネジメントシステム事務局,審査員,コンサルタントの経験を活かして「正しいISOマネジメントシステム」を伝えるブログを作りました。

前回は会社を適切に経営するために必要なものとして「外部及び内部の課題」の話をしましたが,もう一つ大事なのが「利害関係者のニーズ及び期待」です。

利害関係者のニーズ及び期待

どんな会社でもその会社単独で成り立っているわけではありません。

言うまでもなく「お客様あっての会社」ですし,それだけでなく材料,部品などを調達したり仕事を委託したりする取引先や,規制・許認可関係のお役所株主従業員など会社は様々な人々(や組織)と係わって成り立っています。

ISO―利害関係者のニーズ及び期待とは?」でお話しましたが,会社を適切に経営していくためには,「利害関係者」とはどういった人々(組織)なのかを明確にし,そして自分の会社に「何を望み何を期待しているのか」を知り,それを適切に取り扱っていく必要があります。

単に「利害関係者のニーズ及び期待を明確にしなさい」だけでなくその前に「利害関係者は誰と誰なのかを明確にしなさい」とあるのは,それは「重要な利害関係者」が会社によって違うからです。

利害関係者は多岐にわたりますし,会社にとっての重要度もそれぞれ異なります。ですからISOはそれを一律に重要視しろとは言いません。

たくさんいる利害関係者のうち「会社を適切に経営するためには誰と誰の声を聞けば良いかを考えなければいけませんよ」というワケです。

利害関係者とは誰なのか

したがってまず「利害関係者」が誰なのかを整理しなければなりません。

自分の会社にとっての「利害が相互に影響しあう間柄の関係」を持つ人々(組織)が誰なのか考えましょう。

でも,どんな会社でも利害関係者を無視しては成り立っていけませんから,実は「誰と誰の声を聞けば良いか」はわかっているはずで,その声をちゃんと経営の中で適切に取り扱っているのです。だから今現在その会社は存続しているのです。

ISOのマネジメントシステム規格は,「会社を適切に経営するための仕組みやルールのお手本」ですから,「会社を適切に経営するためには利害関係者が誰なのかを明確にし,何を求めているかを知ることが必要ですよ」と言っているだけなのです。

ISOに取り組むのであれば,せっかくの機会ですからあらためて「利害関係者」とその「ニーズ及び期待」を明確にしましょう。

ただISO9001とISO14001では進め方がちょっと違いますので注意が必要です。

ISO9001(品質マネジメントシステム)での利害関係者のニーズ及び期待

品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者を明確にする

利害関係者をすべて列挙するのではなく,会社が「良い製品やサービスをきちんと提供できるかどうかに影響を与える(=製品やサービスの質に関係する)」利害関係者を洗い出しましょう。

列挙してから絞り込んでもいいですが,最初から完璧なものを目指すのではなく大事そうなところからざっと洗い出してみて,後で「抜けていた」と気付いたらその時点で追加するという形でも良いと思います。(※1)

※1:審査対応のために要求事項を満たそうとすると,最初から100点満点に近いものを目指しがちです。ですが必要なのは「審査に通ること」ではなく「会社の経営に役立つこと」だということをお忘れなく。また,審査対応だと「一度明確にしてしまったからOK」と思ってしまうことがよくありますが,そもそも「明確にする」ことが目的ではなく「会社経営に活かす」ことが目的なのですから,それで終わりではなく常に「見落としが無いか」「追加するものはないか」確認することが大切です。

品質マネジメントシステムに密接に関連するこれらの利害関係者のニーズ及び期待を明確にする

洗い出した「利害関係者」が会社に「何を望み,何を期待しているのか」を整理しましょう。

顧客だったら「製品やサービスの質の向上」とか「より安く」「納期」「付加価値」とかでしょうか。

従業員なら「給与引上げ」「ボーナス支給」「労働時間短縮」,取引先なら「取引拡大」「安定的な発注」「単価アップ」といったところでしょうか。

それぞれの「ニーズ及び期待」全部に応えるのは現実的ではありません

しかしそれらといかに折り合いを付けながらより良い製品やサービスを提供し,儲ける,そして会社を発展させることが経営者の腕の見せ所であり,それがマネジメントです。

これらの利害関係者及び要求事項に関する情報を監視し,レビューする

利害関係者のニーズ及び期待を明確にして,それで終わりではありません。

会社を取り巻く状況は刻一刻と変化しています。

「声を聴くべき利害関係者は誰と誰なのか」「それらの人々(組織)は何を求めているのか」について継続してチェックし,情報を更新していくことが大事です。

経営者は必要な情報を常に入手し,必要な判断を下さねばなりませんが,「利害関係者のニーズ及び期待」についても同じです。

ISO14001(環境マネジメントシステム)での利害関係者のニーズ及び期待

環境マネジメントシステムに関連する利害関係者を明確にする

ISO14001は「環境」を取り扱うマネジメントシステムですから「環境」という視点で利害関係者を見なければなりません

顧客は製品やサービスが「エコ」なのか,燃費や電力消費用はどうなのか,有害な物質を使っていないかなどに関心があります。

地域住民や環境NGOは,あなたの会社が有害な物質を保管していないか,そしてそれが放出されていないか,あるいはどんな環境貢献活動を行っているかに関心があるかもしれません。

規制当局(行政)は,あなたの会社の環境法令の順守状況に関心があるでしょう。

ひょっとすると投資家があなたの会社の「環境レポート」を熱心に読んでいるかもしれません。

このような視点で見るとISO9001の時の利害関係者とは異なる部分があるのがわかると思います。

ISO9001とはまた異なる視点で「利害関係者」を洗い出してみてください。

環境マネジメントシステムに関連するこれらの利害関係者のニーズ及び期待を明確にする

洗い出した「利害関係者」が会社に「何を望み,何を期待しているのか」を整理しましょう。

顧客は「エコ商品」が欲しいのか,逆に「エコでなくていいから安くて質の良いものが欲しい」のか。

電気・電子機器などの輸出産業であれば,欧州の有害物質使用制限指令(RoSH指令)が関係するかもしれません。(※2)

※2:電機メーカーの皆さんには釈迦に説法でしょうけど,2001年にオランダがプレイステーションの基盤に基準を超えるカドミウムが含まれているとして輸入を禁止しソニーは190億円もの損失を出しました。その後EUでRoSH指令と呼ばれる有害物質規制が始まり今では日本でも同様の規制があります。

地域住民や環境NGOは排水,排ガス,CO2排出量,化学物質の漏洩対策などでしょうか。

規制当局(行政)は法律や条令の他に環境貢献活動への積極的な参加や寄付なども望んでいるかもしれません。

それらのニーズ及び期待のうち,会社の順守義務となるものを決める

法律や条令等を守るのは当然ですが,中には「事業者は〇〇に努めなければならない」という「努力義務」もあります。それについては「どこまでどうするのか」を経営状態などを鑑みて決めていかなければならないでしょう。また,法令や条令等以外の「ニーズ及び期待」ついてもどこまで「ニーズ及び期待」に応えるのか決めておく必要があります。

ISOのマネジメントシステム規格は,一律で「全部に応えなさい」とは言わず「どこまで応えるのかを自分で決めなさい」と言っているのです。(※3)

※3:ISO14001の“3 用語及び定義”の“3.2.8 要求事項”の注記3に「法的要求事項以外の要求事項は,組織がそれを順守することを決定したときに義務となる。」と書かれています。つまり「法律以外に何を守るかは自分で決めてよいが,決めたからにはそれを守るのは会社の義務ですよ」というわけです。

会社の方針や経営状態を考慮してどこまでやるか決めるのも会社経営,すなわちマネジメントです。

実際は大なり小なりどこでもやっていること

品質でも環境でも,顧客や周りの状況,すなわち「利害関係者のニーズ及び期待」を聞きもせず応えることもせずに商売をやっていけるはずがありません

ISOのマネジメントシステム規格の要求事項として「利害関係者のニーズ及び期待を明確にしなければならない」と書かれると「???」となるかもしれませんが,前述のとおり実際はどこの会社でも大なり小なりやっていることです。

いろいろな人々(組織)の「ニーズ及び期待」を聞いて,バランスを取りながらそれに応えていき会社を経営する,それを「行き当たりばったりではなくちゃんとやってくださいね」といっているだけなのです。

ISOのマネジメントシステム規格に取り組まれる皆さんは,ぜひ自分の会社の「利害関係者のニーズ及び期待」が明確になっているか改めてチェックしてみてください。

あなたが経営者ならあらためて部下の意見を聞いて整理されると良いでしょうし,もし事務局なら経営層に聞き取りした内容を取りまとめれば良いでしょう。

いい機会だと,各部門にそれぞれ「利害関係者のニーズ及び期待」を提出させて取りまとめるといったことでも良いかもしれませんね。

そしてこれらの「利害関係者のニーズ及び期待」も一覧表でも何でもよいので見ることができる形にして,ぜひそれを皆さんで共有してください。

「外部及び内部の課題」や「利害関係者のニーズ及び期待」といった経営に関する基本的な情報は,全員で共有することによって皆が同じ方向を向いて働くことができます

そしてそれによって個々が持つ力を収束し,より有効に発揮することができるのです。(※4)

※4:ISOでは「利害関係者のニーズ及び期待」については「文書化」という要求はありませんので,明確になってさえいれば一覧表等にする必要はありません。するかしないかはお任せしますが,ISO9001ではその内容を「レビューしろ」と言っていますし,ISO14001では「順守義務となるものを決めろ」といっていますから,一覧表でも何でも「形」になっていた方が何かと便利だと思います。

さて次回は「適用範囲」と「マネジメントシステム」についてです。

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ISO9001,ISO14001,ISO/IEC17025のコンサルタント・セミナー講師などをやっています。世の中では「ISOは役に立たない!」という声も聞かれますが私はそうは思いません。世間の誤解を解くため,25年に渡るISOマネジメントシステム事務局,審査員,コンサルタントの経験を活かして「正しいISOマネジメントシステム」を伝えるブログを作りました。

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