失敗しないISO構築法(その2)―会社の状況を確認しよう(概要編①)
ISOのマネジメントシステムを構築し認証取得に取り組むには,ISOのマネジメントシステムがなんであるのかを正しく理解することが不可欠です。
それが理解できたら,次は自社の状況を確認することが重要です。
孫子曰く「彼を知り己を知れば百戦殆からず」
「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」という有名な格言があります。
稀代の軍略家”孫子”が言った言葉です。
もちろんISOは「敵」じゃありませんが,ここでは「取り組む対象」という意味で引用しました。
いま,あなたはISOのマネジメントシステムを理解しました。
次は,自分のことを客観的に知る必要があります。
ISOのマネジメントシステム規格を知り,自社のことを客観的に知ることができれば「成功間違いなし」ということです。
ISOを使ってなにをやりたいのか?
ISO9001やISO14001といったISOのマネジメントシステムを構築し,認証を取得する目的はなんでしょうか。
箇条4から始まる「組織は~しなければならない」という要求事項に取り組む前に,「そもそも何のためのISOか」を明確にしておきましょう。
「ISO ― 何のための取り組みか?(次にやるべきこと)」に書いたように,これが曖昧のまま構築を進めると,いわゆる「形式的なマネジメントシステム」ができてしまい,まさに「百害あって一利なし」状態に陥ってしまいます。
「形式的なマネジメントシステム」がなぜいけないのかは「なぜ形式的なISOはダメなのか?」に書いています。
ISOのマネジメントシステムの目的がはっきりしたら何かに書いておきましょう。(※1)
※1:あなたのノートでもかまいませんし,「ISO構築計画書」のような正式なものに盛り込んでもかまいません。後々ブレないように「明確にする」「形にする」ことが大事です。もし,途中で「やっぱり違うな」と思ったら修正すればよいのです。
そしてこの「目的」はISOに係わる人全員で共有してください。
「何のためにISOに取り組むのか」ということをみんなで理解し,同じ方向を向いて構築を進めることはとても大事です。
さあ次はいよいよ要求事項に踏み込んでいきますよ!
箇条4 組織の状況
ISO9001でもISO14001でも一番最初の要求事項は箇条4の「組織の状況」です。
これはこの二つの規格の場合,2015年の改正で追加されました。
それまでは自社の状況を理解せずにシステム構築を始める会社が多く「要求事項をクリアするため」「認証審査に通るため」の仕組みを作ってしまいがちでした。
そうすると「形式的なマネジメントシステム」ができてしまいます。
そのような進め方では「(品質・環境)目標を設定しなければならない」とあれば「審査を受けるには何か目標を設定しなきゃいけないんだな」と思い,「でもあまり高い目標だと達成するのが大変だからほどほどにしておこう」のような話になってしまいます。
そして「ISO14001は環境改善の目標だからエネルギーや燃料消費量を20%削減」とか「ISO9001は品質改善の目標だから不良品発生率を20%削減」といった「とりあえずの目標」ができてしまいます。
最初のころはコスト削減などにつながるのでまだ良いのですが,何年も続けているとだんだんつらくなってきてとうとう「1%削減」などという良くわからないものになってきます。
「エネルギー・燃料使用量1%削減」や「不良品発生率1%削減」があなたの会社にとってどれほどの意味があるでしょうか。
こうして会社にとって大して意味のない活動を続けなくてはいけなくなっても,審査費用(及び登録料)は払わなくてはならないし,記録や文書の手間もかかります。
現場では「なんで忙しいのにこんな意味のないことをやらなきゃいけないんだ!?」と不満の声が・・・
そうして「ISOは役に立たない」「もうISOをやめたい」といった声があちこちで聞かれるようになってしまいました。
会社の状況を理解しシステムに反映させる
しかし本来マネジメントシステムは会社を適切に運営するための仕組みやルールですから,自社の状況を理解せずにシステム構築はできないのです。
目標を立てるにしても「今,うちの会社の優先課題はこれだから,それに取り組む必要がある」ということを目標にしなければ意味がありません。
例えば「技術継承」という課題があれば「〇年までに社員AとBに対して△をCの指導のもとに身に付けさせる」ということを目標にしなければなりませんし,「排出基準厳格化への対応」という課題があれば「法の施行までに原材料や工程を見直して△の排出量を□ppm未満にする」ということを目標にしなければなりません。
「審査のための目標」ではなく「会社にとって必要な目標」でなければならないのです。
繰り返しますがマネジメントシステムは会社を適切に運営するための仕組みやルールですから,目標を立てろと言えば当然会社の経営に直結した目標にするのは「あたりまえ」なのです。
しかし世間は必ずしもそのようには受け取らなかったようです。
しかし「形式的なマネジメントシステム」が蔓延してはISOのマネジメントシステム規格の意味がありません。
まして「ISOは役に立たない」なんて言われるのは心外でしょう。
ISOでは品質や環境だけでなくすべてのマネジメントシステム規格の共通構造というものを定めて,会社(組織)の適切な経営(運営)のためのものだということをより分かりやすくするとともに,複数のマネジメントシステム規格の運用をやりやすくしました。
それによってどのマネジメントシステム規格でも今では初っ端に「組織の状況」という要求事項が設けられています。
「自分の会社の状況を明確にして,それをマネジメントシステムに取り込む」ことによって「正しいマネジメントシステム」が自然に出来上がるようになりました。
長くなったので続きます。