ISO―間違ったシステムは直せない?
「形だけのマネジメントシステム」は様々な原因でできてしまいますが,一度このような「間違ったシステム」ができてしまうと「正しいシステム」に戻すのは容易ではありません。
間違ったシステム
私も審査で「これはちょっと・・・」と思うようなシステムに何度か出会ったことがあります。
どのような経緯でこのようなシステムが認証されたのかわかりませんが(※1),すでに認証を取得しているシステムを今さら認証取消しにはできませんし,山盛りの不適合を出すわけにもいきません。(※2)
※1:以前のISO9001やISO14001では,要求事項をクリアしていればたとえそれが形だけだったとしても不適合にすることは難しかったようです。担当の審査員としても「やむにやまれぬ」といったところだったのだと思います。
※2:今まで適合だったのに急に同じところが不適合になったら納得いかないですよね。でも,「やっぱり不適合にすべきだったのでは?」と悔やんでいます。結果的にその方がその会社にとっても良かったはずです。
必死で「どこがどういけないのか」を説明しますが,そもそも「マネジメントシステムとは何ぞや?」を理解していませんから(※3),そこからの話になります。
※3:そもそもちゃんと理解していればこのようなシステムは出来上がりませんね。
審査の限界
ただでさえ限られた審査時間ですから,「マネジメントシステムとは会社経営の仕組みやルール」から「形式的なシステムはなぜダメなのか」そして「御社のシステムについて」まで詳しく話している余裕はありません。
やむを得ず重要なポイントに絞り「これこれこういうわけでこのままではシステムが有効に機能しませんし,御社にとってもデメリットが多いので改善の検討をお願いします」と,審査員の必殺技「観察事項(※4)」をいくつか出すに留めざるを得ませんでした。
※4:審査機関によって「オブザベーション」「改善の機会」などとも言います。観察事項は「不適合ではないが放置すると不適合が発生する可能性が高い」「要求事項は満たしているが有効に機能しているとは言い難い」といったものに対して「改善の検討をお願いする」ものです。「必殺技」というより「苦肉の策」ですね。
しかし不適合ではないので改善結果の報告義務はなく,次回の審査でどのように取り扱ったかを確認するに留まります。
それでも改善してくれればよい方で,このようなシステムを作るような会社は「ISOで会社を良くしよう!」という意識が薄い場合が多く,「不適合じゃないから」といってほったらかしにしてしまう場合もあります。
よしんば改善してくれたとしても,形だけのマネジメントシステムは,年に一度,数日間(小規模な会社は1日)の審査で指摘したところを修正するくらいではどうにもならないのです。
もしその会社が「このままじゃマズい」と気付いて「正しいマネジメントシステム」に修正しようとしても,そもそも会社の仕組みとは無関係に作ったマネジメントシステムを会社の仕組みに戻すんですから,たぶん一から作り直すのと同じくらい手間がかかるでしょう。(※5)
※5:会社の仕組みとは関係なしに作られたマネジメントシステムは,作り直した方が早いかもしれません。それでも(たとえ作り直しになるとしても)「間違ったマネジメントシステム」は直すべきです。ISO9001やISO14001の2015年改正は,そういったシステムができないようにするという大きな意味を持ったもので,2015年版への移行は文字通り「システムを作り直す」絶好の機会でした。これからISOに取り組む方は,2015年改正の趣旨を十分に理解してから始めてください。
もちろん世の中にはちゃんとしたシステムを作り継続的に改善を進めている会社も少なくないのですが,上記のような会社を見ると本当にやるせなくなると同時に,何もできない無力感に苛まれます。
このブログで援護射撃
そんなわけで今は審査員はやっておりません。ある程度時間をかけることができるコンサルタントや,こうやってブログで情報を発信する方が自分には向いていると思っています。
私に限らずISOの審査をやっていれば,少なからずこのようなシステムに遭遇するはずですが,それでもめげずにISOと企業の明るい未来を信じて審査を続けておられる審査員の皆さんには本当に頭が下がる思いです。
私は微力ながらこのブログで,そういう審査員の皆さんの援護射撃ができればいいなと思っています。