正しいISOマネジメントシステムを伝えるブログになる予定です

ISO―利害関係者のニーズ及び期待とは?

2020/10/07
 
この記事を書いている人 - WRITER -
ISO9001,ISO14001,ISO/IEC17025のコンサルタント・セミナー講師などをやっています。世の中では「ISOは役に立たない!」という声も聞かれますが私はそうは思いません。世間の誤解を解くため,25年に渡るISOマネジメントシステム事務局,審査員,コンサルタントの経験を活かして「正しいISOマネジメントシステム」を伝えるブログを作りました。

「会社の目的」と並んで大事なのが「利害関係者のニーズ及び期待」です。

ISOでは「利害関係者」があなたの会社に対して「どんなことを求めて(望んで)いるのか」を知ることが重要だと言っています。(※1)

※1:「言っています」は「ISOがその要求事項を設けたのはそういう意図です」というふうに読んでください。

「もしドラ」って知ってますか?

10年くらい前に「もしドラ」(※2)という本がベストセラーになりマンガやアニメにもなりました。

ご存じの方も多いと思いますが,高校野球部の女子マネが「ドラッカー」「マネジメント」に導かれて野球部を「マネジメント」しながら甲子園を目指す,という話です。

※2:正しくは「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で,ドラッカーのマネジメントを理解するのにとても良くできた本です。でも,お話の中で主人公がとった「ノーバントノーボール作戦」は一野球ファンとしては納得がいかないです(笑)

「マネジメント」もビジネス界のバイブル的な本ですね。

この中でドラッカーは

「顧客を満足させることこそ企業の使命であり目的である。」

「企業の目的と使命を定義する出発点は『顧客』であり,『顧客』によって事業は定義される。」

「『顧客は誰か』という問いこそ個々の企業の使命を定義するうえで最も重要な問いである。」

と言っています。前回の話で「あなたの会社の目的はなに?」という話をしましたが,ドラッカーによれば「会社の目的って『定款』に書いてあることじゃないよ」ということになります。確かにそれが本質だと思います。

でも話が難しくなるのでここではとりあえず「定款」から出発することをおすすめしています。もし,余裕があったら「自分の会社の『顧客』って誰だろう」を考えてみてください。会社をきっと良い方向に導いてくれると思います。

会社をうまく切り盛りするのに必要な情報

さて,「もしドラ」では主人公が「高校野球の顧客って誰?」と悩みますが,もちろん会社にとっても「顧客って誰?」は非常に重要です。

しかしここでは「会社の目的,使命を定義する」のではなく,それが決まっている前提で,その後の「会社を適切に運営する」というところの話をします。

「もしドラ」の主人公みなみも,「高校野球の顧客が望んでいることは何か」から野球部が甲子園に行くためのヒントを得ます。

同じように「会社をうまく切り盛り」していくには,「顧客」が何を望んでいるかを知ることが不可欠です。

自分たちが作りたいものを勝手に作って売ったってうまくいくはずがありません(たまにうまくいくこともあるようですが)。

ただ「マーケティング」の話ではありませんよ。「製品やサービスに何を望んでいるか」だけではなく「『会社に』何を望んでいるか」も含みます。

そして「マネジメントシステム」に必要なのは「顧客」だけではありません

会社を取り巻く「利害関係者」「会社に何を望んでいるか」を知る必要があるのです。

「利害関係者」は品質と環境ではちょっとニュアンスが異なる

ところでISO9001にもISO14001にも「利害関係者が誰と誰か」「利害関係者は何を求めて(望んで)いるか」を明らかにするという要求事項があります。

でも,ISO9001とISO14001ではちょっとニュアンスが違っています。

ISO9001は「密接に関連する利害関係者」,ISO14001は単に「利害関係者」となっています。

利害関係者は「株主」「顧客」「取引先」「従業員」「協力会社」「行政機関」「取引銀行」「地域住民」など多岐にわたります。

会社はこれらの人々(組織)とうまく付き合いながら経営していくものですから,当然,その人たち(組織)が会社に何を求めて(望んで)いるか,すなわち「ニーズ及び期待」を知る必要があるのです。

ニーズと期待

しかし,ISOのマネジメントシステム規格は,会社経営のいろいろな要素のうち,品質や環境や情報セキュリティなどの「あるジャンルに関するマネジメント」を取り上げたものですので,その「ジャンル」ごとに少しずつ違うところもあります。

経営要素のうち,ISO9001は「品質」に関する部分,ISO14001は「環境」に関する部分についてのマネジメントシステムですから,それぞれの観点での「利害関係者」も自ずと違ってきます。

ISO9001では次のことを明確にしなさいと言っています。

・会社経営(運営)のうち品質マネジメントシステムに関係する利害関係者は誰と誰か

・その人たち(組織)が会社に何を求めているか

なぜ明確にする必要があるかの理由もISO9001には,

「利害関係者が何を求めているか」は「良い製品やサービスをきちんと提供できるかどうかに影響を与える」

からであると書かれています。

 したがってISO9001では「良い製品やサービスをきちんと提供できるかどうかに影響を与える」利害関係者が誰と誰かを明確にすることを求めています。

なので「品質マネジメントシステムに関係する利害関係者すべて」ではなく,「密接に関連する利害関係者」としています。

なお,ISO9001ではさらに,

「利害関係者が誰と誰か」「何を求めているか」について常に注視し,必要に応じてその内容を更新するよう求めています。

会社経営にとって重要な情報なので,「状況の変化にきちんと対応していかなければならないよ」というわけです。

状況の変化

一方ISO14001では,次のことを決定しなさいと言っています。

・会社経営(運営)のうち環境マネジメントシステムに関係する利害関係者が誰と誰か

・その人たち(組織)が会社に何を求めているか

・その中で会社がきちんと守らなければならないものは何か

ISO9001と違って「密接に」は入っていませんね。

 環境という経営要素にもいろいろありますが,特に「環境影響」がクローズアップされます。工場であれば排出ガスや工場排水,騒音振動,悪臭といったものや,危険物や化学物質の大量貯蔵といったリスクなどは,ISO9001と違って周辺住民を無視することはできないでしょう。

また,昨今の地球温暖化問題への意識の高まりから製品の省エネ性能廃棄物問題など,エンドユーザーが関係する場合もあるでしょう。

場合によっては所在地の自治体と「公害防止協定」を結んでいるかもしれません。

「品質」より「環境」の方が「利害関係者」の範囲が広い感じがしますね。

ISO14001ではそういった「利害関係者」が求めていることの中で会社を適切に経営するために「会社がちゃんと守らなければならないもの」は何と何か?を決めなさい,と言っています。

ポイントは「自分で決める」ということ 

「品質」と「環境」では「利害関係者」が「誰か」いうことは異なります。

でも,そもそも「利害関係者が誰か」は,それぞれの会社によって違います。

「品質」「環境」だけでなく,その会社の規模や業種,地域などによっても「利害関係者」は異なって当たり前です。

業種によっては業界団体が「利害関係者」に加わる場合も多いでしょうし,NPO環境保護団体が加わる場合もありますよね。

いずれにしても重要なポイントは「自分で決める」ということです。

「一般的には」とか「うちの業界では」とか,そういったことは参考にしてもいいですが,結局は「求めている(望んでいる)ことを会社の経営に反映させる利害関係者が誰と誰か」はその会社が自分で決めることです。

言い方を変えれば「自分で決めていいんだよ」ということですが,それは「会社経営の責任はその会社にある」ということでもあります。

会社経営とはいろいろなものごとを天秤にかけてより良い方に進んで行くことです。

良いと思ったことでもコスト無視して突き進んで行くわけにはいきません。でも,時にはコストがかかってもやらなきゃならないこともあります。

会社と利害関係がある人すべての言うことを全部聞いていては会社は成り立ちません。そこで,「話を聞くべき利害関係者は誰と誰か」「自分で」決めるのです。(※3)

※3:ISO14001ではさらにその中の「これは絶対守らなきゃいけない」ものを決めて,それを守るための仕組みも作りなさい,と言っています。これも「何をどこまでやったらよいか」「どうやって守るか」を会社経営上の判断として「自分で」決めるのです。

「誰と誰を利害関係者とするか」そして「その人たちが求めていることは何と何か」を「自分で決めていい」からといって楽をしようと適当に決めてしまうとどうなるでしょう。

「審査で不適合にされる?」いやいやそうではありません。

「利害関係者」が「求めていること」を知り,それを会社経営に反映させることはとても重要なことです。そんな大事なことをいい加減にする会社は「審査で不適合」以前に経営に失敗するのではないでしょうか。(※4)

会社経営にとってとても大事なことだからISOでは「利害関係者のニーズ及び期待」という要求事項があるのです。

どうです?やっぱりISO(のマネジメントシステム)って会社経営システムそのものですよね。

※4:ISOは「自分で決めろ」と言っているのですから,いい加減だとしても「自分で決めたこと」は審査員も不適合にはしづらいと思います。ですが,それを黙って見過ごす審査員もいないと思います。まあ程度問題ですが「オブザベーション」くらいは出すのではないでしょうか。でも審査の結果より会社経営の方が大事ですよね。もしそれでも会社がうまくいっているなら,その会社はISOとは関係なく,もともと「利害関係者は誰と誰でわが社に何を求めているか」を(なんとなく)理解しているのです。そしてそれはただISO用の資料に書かれていなかったり説明の時に出てこないかったりしただけなのです。ISOはそれを「なんとなく」ではなく「確実にやりましょう」と言っているのです。

この記事を書いている人 - WRITER -
ISO9001,ISO14001,ISO/IEC17025のコンサルタント・セミナー講師などをやっています。世の中では「ISOは役に立たない!」という声も聞かれますが私はそうは思いません。世間の誤解を解くため,25年に渡るISOマネジメントシステム事務局,審査員,コンサルタントの経験を活かして「正しいISOマネジメントシステム」を伝えるブログを作りました。

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


Copyright© Sustainable Management Systems , 2020 All Rights Reserved.