正しいISOマネジメントシステムを伝えるブログになる予定です

失敗しないISO構築法―私の失敗例

 
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ISO9001,ISO14001,ISO/IEC17025のコンサルタント・セミナー講師などをやっています。世の中では「ISOは役に立たない!」という声も聞かれますが私はそうは思いません。世間の誤解を解くため,25年に渡るISOマネジメントシステム事務局,審査員,コンサルタントの経験を活かして「正しいISOマネジメントシステム」を伝えるブログを作りました。

ここからは私の事務局,コンサルタント,審査員の経験を元に,「失敗しないISO構築法」をシリーズで書いてみたいと思います。

これからISOのマネジメントシステムを構築して審査を受ける方に,少しでも参考になれば良いと思います。

まずはこんなことはやっちゃダメという事務局としての失敗例を紹介します。

失敗例その1(ISO14001)「環境マネジメントシステムはかくあるべき」という「理想のマネジメントシステム」をめざしてしまった。

私が環境マネジメントシステムに取り組んだ1996年頃は,日本でも「環境と開発に関するリオ宣言」や,その行動計画である「アジェンダ21」などによって「地球環境問題」への取り組みが盛り上がっていました。

当時はまだ“CSR”(企業の社会的責任)という言葉も一般的ではありませんでしたが,「地球環境を守るためにそれぞれができることをやろう」というのがそのころの「流行り」でした。

そんな中で,公害問題のように一律の規制を設けるのではなく,「それぞれの企業が自分で自分の環境影響を把握し管理(削減)する」というISO14001のコンセプト(※1)は多くの企業に受け入れられ,急速に普及していきました。

※1:本当のISO14001はこんな単純なものではないのですが,当時は多くの人がこのように考えていました。

そんな中でわが社でもISO14001の認証を取ることになり,私が事務局を拝命しました。

ところがその頃はマネジメントシステムの何たるかもわからず,本当は会社の経営の仕組みを「環境」という視点で形にすべきところを,会社の中に環境を守るための仕組みを取り入れるのだと思い込んでいました。

そして会社の中の「環境に影響する要素(※2)」を洗い出し,それらを管理(削減)する仕組みを作っていきました。

※2:いわゆる「環境側面」というヤツです。

そうして出来上がったシステムには「経営」という重要な要素が抜けていたために,「環境マネジメントシステム」ではなく単なる「環境管理システム」ともいうべきものでした。

そのシステムは「環境配慮の仕組み」を新たに会社に追加するものだったため,省資源,省エネ,廃棄物の分別・リサイクル,グリーン購入,緊急事態対応訓練など様々な新しいルールが現場を圧迫してしまいました。

それでも一応は「環境」を商売にしている会社,やっぱり「環境配慮」は自分たちの責任だと思ってついてきてくれましたが,そもそも「経営」という視点が抜けているため「本当にここまでやる必要があるの?」という疑問には誰も答えられませんでした。私もつい「困ったときのなんとやら」で「審査に通るため」という本末転倒の「禁句」を使ってしまいました。(※3)

※3:リスク回避や経営改善,イメージアップ,社会貢献など,ISOのマネジメントシステム規格を使う理由は多々ありますが,「審査のため」はありえません。ルールを守らせるためについ使いたくなりますが,やめておきましょう。

いわゆる「偉い人達」も,「経営」という視点があればそれなりに評価してくれたのでしょうが,もともと不純な動機で始めた認証取得(※4)だったので,そもそも「環境配慮」に熱心なわけではありません。

皆さんISO14001に対しては「我関せず」「よきにはからえ」的なスタンスでした。

※4:当時新規事業を模索していたわが社は,環境調査系の会社なので元々環境には詳しいというところから(無謀にも)ISO14001のコンサルタントを始めようとしたのです。しかし,社内には環境には詳しくてもISO14001に詳しい者は誰もおりません。「じゃあ,実際に認証を取ってみれば他人さまにも教えられるんじゃね?」ということになり,社内の化学分析部門で認証を取ることになりました(安易ですね(笑))。会社としては「地球環境保全に貢献しよう」という使命感ではなくコンサルタントという商売のための認証取得だったのです。

そんなこんなでせっかくの環境マネジメントシステムはさっぱり盛り上がらず,継続的改善も進まず,マンネリ化に陥っていきました。

その後,私のISOの師である楢﨑建志氏と出会い,「マネジメントシステムとは何か」を少しずつ理解し始めると,ようやく自分の作ったシステムの方向性が間違っていることに気づきました。

それから修正が始まるのですが,方向性を間違ったシステムは簡単には直りませんでした

やはりマネジメントシステムは「経営」の視点が不可欠です。

環境のためにやった方が良いと思われることも,経営の視点を加えると優先順位が下がることは多々あります。一方で,経営リスクの観点や,逆に経営の機会につながるために手間と費用が掛かっても最優先で取り組まなければならないこともあります。

「経営の視点」を持つことで,自分の会社が「何に取り組まなければならないか」が初めて明確に見えてくるのです。

そしてそれが「〇〇マネジメントシステム」なのです。(〇〇には「環境」や「品質」が入ります)

失敗例その2(ISO9001)他社(同業者)の品質マネジメントシステムをそのまま持ってきて自社のマネジメントシステムとした。

これは私ではなく前任者の話ですが,手っ取り早くISO9001を導入するために,すでに認証を取得していた同業他社の品質マネジメントシステムをお金を出して買いました。

同業といえども会社の仕組みやルールは異なります。

これが現場の品質保証だけの仕組みだったらまだよかったかもしれませんが,ISO9001は「マネジメントシステム」ですから,会社本来の仕組みやルールとリンクしていなければなりません。

他社のマネジメントシステムを入れようとしてもなかなかうまくいくはずもありません。

更に悪いことに,買ったシステムの出来があまり良くなかったのです。

そのシステムはISO9001が大改正された2000年以前の1994年版(又は1987年版)を元に作られていて,それを2000年改正に合わせて修正したものだったのですが,その2000年改正への対応があまりうまくいってませんでした。

2000年改正はそれまで「品質保証」の規格だったものが「品質マネジメント」の規格になるという大きな変更があったのですが,この会社の対応は以前のISO9001の要求事項を2000年版に合わせて並べ替えただけのようでした。

当時のわが社の担当者もISO9001は「品質保証」のシステムで現場で使うものだという認識だったかもしれません。それで他社のシステムを導入するということにも,システムの中身にもあまり違和感を持たなかったのかもしれません。

そんなわけでこのシステムもあまり盛り上がりませんでした。

その後で私が担当になった時に2015年改正に対応することになりましたが,この時システムを会社のマネジメントシステム合わせて修正したのですが,これもやっぱり苦労しました。

一から作り直した方が良かったのですがそうもいかず,イマイチなところがけっこう残ってしまいました。

システム構築に王道なし

というわけで,失敗例を二つ紹介しましたが,やっぱり「システム構築に王道なし」です。

手っ取り早くシステムを構築しようと思うと失敗します。

地道にコツコツやるのが一番です。

それともうひとつ。

皆さんの前にはすでに会社の仕組みやルールという立派な「マネジメントシステム」があるのです。

まずはそれをISOと照らしながら形にしていきましょう。

そうして出来上がった「〇〇マネジメントシステム」は,自然に受け入れられ,会社を少しずつより良い方向に向かわせるでしょう。

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ISO9001,ISO14001,ISO/IEC17025のコンサルタント・セミナー講師などをやっています。世の中では「ISOは役に立たない!」という声も聞かれますが私はそうは思いません。世間の誤解を解くため,25年に渡るISOマネジメントシステム事務局,審査員,コンサルタントの経験を活かして「正しいISOマネジメントシステム」を伝えるブログを作りました。

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