マネジメントシステム構築のポイント―ISOは越えるべきハードル?
ISOを「クリアするもの」「認証を取るための試験や関門」と考える人がいますが,そうではありません。
要求事項を箇条4からひとつひとつクリアしていけばいいんだな,と思っていたら大間違い!
それではただ「要求事項を満たしただけの形ばかりのシステム」が出来上がってしまいます。
また,スキのない仕組みを作り,それを実践することによって会社が良くなるのだと思っていると,逆に厳しすぎるシステムになってしまうこともあります。
ISOのもうひとつの落とし穴―前のめりのシステム
ISOの要求事項には「~しなければならない」と書いてあるもんですから,つい審査に通るには「きちんと~しなきゃならないんだな」と思いがちです。
なので無理してでも「きちんとした~」の仕組みを作ってしまうことがあります。
やる気があるほど理想を追求してしまうものですが,行き過ぎると現場がついて来れなくなります。
ISOのひとつひとつの要求事項はどれも組織が備えていなければならない要件ですが、その重要度、濃淡は組織によって大きく異なります。
ある要求事項がある会社の経営上とても重要な要素であっても別の会社ではそうでもない,といったこともあります。
これはISO9001の話になりますが,「顧客満足度を監視しなければならない」という要求事項があります。
大企業などでは,アンケート調査やマーケティングなど顧客満足度調査を大々的に実施しています
ですが街の食堂のような小規模の会社に同じ仕組みは必要でしょうか。
街の食堂であれば,厨房からお客さんが料理を食べているところを見てその様子や会話から味付けやメニューを工夫する。これでも良いと思いませんか。
ISOが言っているのは「作りっぱなし」「売りっぱなし」ではなく,「それをお客さんがどう受け止めているかを知って,商品やサービスを良くしていく仕組みがなくてはその会社は良くはならないよ」ということです。
決して「顧客満足度調査システム」みたいな仰々しいものを要求している,ということではないのです(もちろん大企業には必要でしょうけれども)。
これは他の要求事項についても同じです。
身の丈に合ったシステム
大事なのは自分の会社をよく理解し、その上で自分の会社にとってISOの要求事項がどんな意味を持つのかをひとつひとつ確認することです。
そして自分の会社に合ったマネジメントシステムを構築することなのです。
ですが「~しなければならない」と言われるとどうしても「~しなきゃいけないのか」と大袈裟に考えてしまうものです
そして「すべての要求事項」に対して立派な仕組みを作ろうとしてしまうのです。
そうなってしまうと,必要以上に厳しすぎる仕組みが出来上がってしまいます。
例えば前述の街の食堂で「顧客満足度調査システム」の仕組みを作って,テーブルに置かれたアンケート用紙だけでなく,DMやインターネットで大々的にアンケート調査を行い,その結果を点数化し,統計処理して・・・
この食堂は果たしてかけた資金や労力に見合った成果を得られるのでしょうか。
「形だけのマネジメントシステム」もいけませんが,「オーバースペックなマネジメントシステム」も同じくらいいけないものです。
オーバースペックなシステム
ISO14001でも初期のころ,そもそもそれほど多くないコピー用紙の使用量と再利用枚数をこと細かく集計したり,事務所の照明の点灯時間を部屋ごとに集計したり,「本当にその仕組みは必要なの?」という活動や仕組みを見かけることがありました。
紙を大量に消費する会社では「いかに無駄な紙を減らすか」は環境上の経営課題ですが,そうでもない普通のオフィスにその会社と同じ仕組みはいりません。
ISOの審査は,要求事項への適合性を評価するものなので,たとえその仕組みが「そこまで必要か」と思っても「ダメ」とか「やめなさい」とは言えません。せいぜい「仕組み自体は適合していますが,複雑すぎて他の不適合を誘発する恐れがあるので『本当にそこまでする必要があるか』検討することを推奨します」のような指摘しかできません。(※1)
※1:これは私が以前,実際に審査員から言われた言葉です。確かにだいぶ「背伸びした」仕組みでした。この言葉を聞いて肩の力が抜けました。
背伸びせずに少しずつ理想に近づく
会社の経営は,限られた資源(人,モノ,お金)を効率よく活用し,いかに利益を得るか,が大事です。
そしてマネジメントシステムは,そのためのものです。
皆さんの会社にも会社が無秩序にならないように,または無駄なことをなるべくしないようにするための仕組みやルール,つまりマネジメントシステムがあるのです。
前にもお話しましたがISOのマネジメントシステム規格は「理想のマネジメントシステム」を表しています。
ISOのマネジメントシステム構築は,ISOというお手本を見ながら自社のマネジメントシステムを「理想に近づけるために」少しずつ強化していくものです。
会社の現状を規格の要求事項に当てはめていくと所々穴が見つかります。その穴が会社の弱点なので、そこをどうやって埋めるかをみんなで考え対応していくことから始めていけばよいのです。
そうやって少しずつ継続的改善を繰り返してISOの示す理想の会社に近づいていくのです。
そこで「~しなければならない」ではなく「ちゃんとした組織は~しているものですよ」と読み替えるとよいでしょう。
「じゃあうちの会社もちゃんとした会社になるために,それにあやかろう。」くらいの気持ちでシステム構築に取り組んでも良いと思いますよ。