こんなISOは失敗する―事務局が孤軍奮闘
時々ISO事務局が孤軍奮闘している会社を見かけます。
社長はISOに対してヤル気満々ですが実際は事務局に丸投げ。
「お前は今日からISOの事務局ね!たのんだぞ!期待してるぞ!」なんて言われてシステム構築の一切合切をまかされた事務局の皆さんお気の毒様です(私もかってそうでした(苦笑))。
一方,現場では「最近社長が『ISO取るぞ!』って盛り上がっているけど,忙しいのに勘弁してほしいなあ」と,どうやらかかわりたくない様子。
マネジメントシステムは会社の現状を知るところから始まります。なのに社長や現場の協力がないとISOはどんどん間違った方向に進んでしまいます。
「こりゃあマズいなあ」と思ったケース
以前,審査員だった頃に見かけた「こりゃあマズいんでないかい?」と思ったケースをいくつか紹介します。
ケース1:気が利く女性事務員がひとりで孤軍奮闘
総務の気の利いた若い女性が事務局という会社はけっこうあります。事務作業をテキパキとこなし,コミュニケーション能力も高くて社内でもウケが良い。そんな方がたった一人で文書を作り,○○管理委員会を仕切り,審査の対応をしています。
もちろん女性がダメと言ってるワケじゃありません。マネジメントシステムを形にするときに事務局のセンスってけっこう大事ですから,むしろこういう人の方が適任な場合も多いのです。
また,会社のもともとのマネジメントシステム(仕組みやルール)を調べるときや,手を入れる(改良・強化する)際に,女性の方が協力を得やすいかもしれません。
実際,当人は使命感に燃えて頑張ってますし,一人で勉強してあれこれ考えながら孤軍奮闘でシステム構築に励んでいます。
でもちょっと待ってください。
ISOは「会社経営の仕組み」なのにそれを事務局に丸投げしてしまって良いのでしょうか。
会社の優先課題の決定や目標の決定、社内のルール作成などは事務局レベルのことじゃないですよね。
会社の経営とISOは同じものとわかってたら,そういう大事なことは自分で決めるか役職付きの人に相談しませんか。
社長や責任者の方が考えたことを指示して,それに基づいて事務局が作業するのならともかく,丸投げってどうでしょうか。
自分の会社の経営の仕組みの改善を任せるなんて,実はその女性が次期社長?
もちろんそう思っていないから丸投げなんですよね。
それはISOそのものを誤解しているという証拠です。
ケース2:社外から事務局をスカウト
ISOの導入は「いろいろ文書を作らなくちゃイケないんだよな?」ということで,社外から事務系の人をスカウトして事務局にする場合があります。建設会社など「技術系」の会社に多いかもしれません。
社員は技術系がほとんどで,総務も少人数でISOまでは手が回らない,ということで事務作業が得意な人をどこからか連れてくるワケですね。
前の職場でISOの経験があればまだマシですが,そうでない場合は大変です。
社長以下みんながISOをある程度理解していればいいのですが,そうでない場合,現場は「仕事優先」でなかなか協力してくれませんし,社外から来た人の言うことを聞いてくれない場合も多々あります。
事務局は外部の人なのでそもそも会社の細かいところなど知るわけもないのに,現場が協力してくれなかったらどうしようもありません。かといって勝手に新しいルールを作ったら怒られそうだし,あえて作っても誰も守ってくれないでしょう。
そうなると事務局はあたりさわりのないマネジメントシステムを作るより他に手はありません。
こうしてとりあえず要求事項を満たすだけで,もともとの会社のマネジメントシステムとはほとんどかかわりがない「形だけのマネジメントシステム」が出来上がります。
こうなるとISOは「面倒くさい」どころか「お荷物」になってしまい,ますますモチベーションがあがりません。
審査では社長はやる気満々でインタビューでもたくさんお話してくれるのですが,いざ現場に行くとテンションが低くてイヤーな感じがします。
さらにインタビューしてみると「ISOは事務局の〇〇が担当だから私はわからない」とか「〇〇さんに聞いてください」などという答えが返ってきたり,ルールが守られていなくても悪びれる様子もなかったり,社長のテンションの高さとのギャップに暗澹たる気持ちになります。
ケース3:現場と掛け持ち
第一線の人や社長の片腕的な人を事務局に任命するケースです。
ISOの責任者としてはベストに近いのですが,実際にいろいろな作業をする事務局としてはどうでしょうか。「事務局の仕事」の他に「元の仕事もやらなくてはならない」という場合は大変です。
社内のことは良く知っているし社内に顔も利くので,このケースは上の二つに比べたらまだ良い方なのですが,如何せんISOの事務局は片手間でできるような仕事ではありません。(※1)
※1:システムが出来上がって順調に動き始めた場合は掛け持ちでも大丈夫かもしれません。でも,その場合でも記録を整理したり書類を作成したりする助手(部下)は欲しいでしょう。
掛け持ちではゆっくり考えているヒマはありませんし,もし,同時にISOと現場の仕事が重なったらどうしたって仕事優先になります。
ISOのことをちゃんと勉強する時間もないでしょうし,社内教育も厳しいでしょう。
このケースでもやっぱり「形だけのマネジメントシステム」になってしまいがちです。
誤解がないように言っておきますが,「掛け持ちがダメ」と言っているのではありません。人数の少ない中小企業ではISOの専任は厳しいですから,兼任はやむを得ないと思います。
でも「一人の人に任せちゃダメですよ」ということです。
事務局が孤立する原因
これらのケースは,ISOを「経営の仕組み」ではなく「会社が取り組む〇〇改善運動」のようなものと考えているのかもしれません。(※2)
※2:「〇〇」には「品質」や「環境」などが入ります。
そしてISOの審査は「書類を作ってそれを見てもらう」のと「現場の仕事ぶりを見てもらう」くらいの感覚のようです。
ですから「書類関係はできるだけ体裁を整える」「現場はちゃんと作業をする」がISOだと思っています。
「書類を作るのがISO」だと思っているので,「誰かひとりに事務局をやらせればいい」と思ってしまうのでしょう。
ISOはチームで!
でも,そもそもISOはひとりでやるものじゃありません。
ISOは,会社のもともとのマネジメントシステムをISOの要求事項と照らし合わせながら再確認し,足りないところを追加したり弱いところを補強したりして,理想のマネジメントシステムを目指すものです。(※3)
※3:ISOの要求事項をすべて満たしても「理想のマネジメントシステム」ができるワケではありません。「理想のマネジメントシステム」を目指す「スタートラインに立った」というだけです。そこから「マネジメントシステム」を動かして「継続的に」改善を進めていくのです。ISOの認認証を取ったからといってすぐに良いことが起きるわけじゃありません。でも,ISOのマネジメントシステムを構築しなければ「スタートライン」にすら立てないかもしれません。そういう意味では「審査」は,「スタートラインに立てたかどうかを確認するもの」なのかもしれませんね。
そして理想のマネジメントシステムを目指しながら改善を進めてより良い会社になっていくのがISOなのです。
そのためには社長のリーダーシップも必要ですし,会社の具体的なルールを確認したり,ルールを改善したりするには現場の協力が絶対に必要です。
会社を動かしているのが社長であり,現場なのですから,どちらもマネジメントシステムに無関係なわけがないのです
もっと言えばマネジメントシステムは会社の仕組みやルールなのですから,会社にいるすべての人がかかわっています。
どう考えても「事務局が一人で」構築するものではないでしょう。
大きな会社であれば「ISO構築委員会」とか「認証取得プロジェクトチーム」とか,そういったチームを作ってもいいでしょう。もし会社の規模が小さい場合はそこまでしなくとも大丈夫です。
中小企業の場合は,責任者と担当者を決めて,後は必要に応じて社長や現場と小まめに相談しながら進めていけばOKでしょう。
ISOはぜひ関係者全員で取り組んでください。