ISOはなぜカタカナが多い?
なんどもお話していますがISO9001やISO14001は「マネジメントシステム」です。
いつもは「マネジメントシステムは会社を運営(経営)する仕組みやルール」と説明していますが,今日はもうちょっと「マネジメントシステム」という言葉を深掘りしてみます。
Management systemの日本語訳はマネジメントシステム?
ISOの話をしていると「なんでカタカナなの?」「カタカナは嫌いだから日本語で説明してください」という方がおられます。
実は私も苦手でして「ポートフォリオ」とか「パラダイム」とか言われると頭のブレーカーが落ちる仕組みになっています(笑)
でもさすがに「マネジメントシステム」についてはそうも言ってられません。
カタカナ語は日本語に訳せない言葉
一般的にカタカナで表される言葉には「一言で置き換えられる日本語がない」場合が多いです。
ISO14001がまだ発行される前,DIS(国際規格原案)だったときは「環境管理システム」というタイトルがついていました。でも,正式に発行されたときには「環境マネジメントシステム」に変わっていました。
これは「マネジメント」は単なる「管理」ではない,「管理システム」としては誤解を生む,ということが理由だったようです。(※1)
※1:「管理」は”control”ですね。でも困ったことに今”management”をネット辞書でしらべると日本語訳が「管理」と出ます。で,「管理」を英訳すると”management”と出るのです。あれ?と思って”control”を和訳すると「コントロール」。なんじゃそりゃ?
環境マネジメントシステム≠環境管理システム
「環境マネジメントシステム」とは,環境を単にコントロールするための仕組みではなく,会社の「環境に影響を与える要素(※2)」を経営の中で適切に取り扱うための仕組みなのです。
※2:環境に影響を及ぼす要素は,工場排水やばい煙など,負の影響だけでなく「ハイブリッドカー」「電気自動車」や「LED照明」などプラスの影響もあります。
「環境管理システム」としたのでは,工場排水や排煙のようなものをコントロールする「公害対策」的なものだと勘違いされる恐れがあるので,”management system”をそのままカタカナに置き換えて「マネジメントシステム」としたそうです。
確かに日本語には”management”を一言で言い表す適切な単語がありません。近い言葉に「経営管理」や「運営管理」(※3)がありますが,じゃあ「環境経営管理システム」や「環境運営管理システム」だったらどうかと言われれば,やっぱりちょっと違うような気がします。
同じくISO9001も「品質管理システム」としてしまうと本来は営業や人事なども含む会社全体に関係する仕組みなのに「現場で製品やサービスの品質を管理する仕組み」と勘違いされてしまいそうです。
なのでこれも「品質マネジメントシステム」ということになっています。ISO27001やISO45001などISOのマネジメントシステム規格はみんなそうです。
※3:ISO9001:2015には「マネジメント」という言葉の定義がありますが,その項目は「3.3.3 マネジメント,運営管理(management)」となっています。この項目は言語(英語)では“management”なのですが,日本語では「マネジメント,運営管理」となっています。これはISO9000シリーズの規格の中で“management”を「マネジメント」と訳す場合と「運営管理」と訳す場合があるからのようです。ややこしいですね。
そもそもマネジメントシステムの定義は?
ここでISO9001やISO14001の「マネジメントシステム」の定義をそのまま引用するともっと混乱しそうなのでやめておきますが,要は「マネジメントシステム」は,「『会社の方向性(方針)』『その方針に沿ってなにをするか(目標)』『その目標を達成するための手段,方法」といったものを決めたり作ったりする仕組みをすべてひっくるめたもの』です。
いまひとつピンときませんね。
「マネジメントシステム」は,よく航海に例えられます。
まず会社を設立するということは,航海では目的地(新大陸,黄金の国ジパングなど)を設定することですね。
そして船,水,食料(事務所,事務機器,設備など)を調達して船員(社員)を雇い,船長,航海士,甲板長といった役割分担(社長,役員,部長,課長など)や航路(方針や目標)を決めて,天候や海流,暗礁といった必要な情報(マーケティング,競合,景気など)を収集し,航路(方針や目標)に沿って安全に航海します(事業活動を行う)。
時には嵐や暗礁,海賊に出くわしたり,食料や水が不足したり,疫病が発生したりといった非常事態が起きることもあるでしょう。ですがその都度それらに対処しながら目的地を目指す,ということは会社の経営と同じです。
そして調達,雇い入れ,役割分担や方針,目標の決定,航海そして非常事態への対処といったことを実施するための仕組みやルールをひっくるめて「マネジメントシステム」というわけですね。
“management system”を日本語で言うと?
どうでしょうか,これを一言で表そうとしたらどんな単語が良いでしょう。最も近いのは「運営管理システム」ですが,どうもしっくりきませんね。
と,いうことでだったらそのままカタカナで「マネジメントシステム」でいいんじゃね?ということになったみたいです。
同様に「プロセス」「パフォーマンス」「インフラストラクチャー」などもISOで使われていますがこれも「一言で置き換えられる日本語がない」ということでしょう。
ですからこれらの単語は無理に日本語に訳さずカタカナで覚えてください。
ただし,その意味はちゃんと日本語で理解してくださいね。